疑似相関の危険性はもっと世間に広まった方が良い
皆さんはこのような有名なジョークを知っているでしょうか。
「アイスクリームの売り上げが増えると、プールの事故の件数が増える。よって、アイスクリームは危険であるから販売するべきではない」
このジョークが全くの的外れだということは誰でもすぐにわかりますよね。
アイスクリームの売り上げとプールの事故数には確かに相関関係があるかもしれません。
ただし、これは決してアイスクリームがプールの事故を引き起こしているわけではありません。
アイスクリームの売り上げが伸びるということは、気候が暑くなってきたことになります。
そして暑くなればプールに行く人も増え、プールの事故数は増えることでしょう。
つまり、アイスクリームの売り上げとプールの事故との相関関係の間には
「気温が暑くなった」
という第3の因子があることになります。
ちなみにこの第3の因子を『交絡因子』と呼びます。
このアイスクリームの売り上げとプールでの事故数のような、一見すると直接的な関係に見えるものを、科学の世界では「疑似相関」と呼びます。
まだ、上記のアイスクリームの例はわかりやすいと思いますが、ちょっと例を変えると人間はころっと騙されるようになります。
有名な話では、朝食と学力の関係です。
ある時、日経にとんでもない記事が載ったことがあります。
それは「朝食を食べる子は、学力が高い」という記事です。
この記事では「脳のエネルギー源としてブドウ糖が必要であり、朝食を積極的に摂ることで脳が働く」などともっともらしい理屈もついていました。
しかし、この説も疑似相関でしかありません。
朝食をしっかりと食べさせる家庭ということは、教育的な態度がしっかりとしているのかもしれません。
もしくは、その子にはきちんとした生活習慣が身についているのかもしれません。
そして、そのような交絡因子が学力が高い直接的な原因になっているかもしれないのです。
ですから、そのような交絡因子を無視して
「朝食を食べれば学力があがる!だからみんな朝ごはんをしっかり食べよう!」
というのは、論理が破綻しているのです。
※僕は決して「朝食なんて食べても学力は伸びない」なんてことを言っているわけではありません。朝ごはんはなるべく食べたほうがいいですよ。気分的に。
この疑似相関の罠には子供だけではなく、大人も日常生活で結構ひっかかります。
例えば
「業務中に携帯をいじる時間が多い奴ほど、営業成績が悪い。だから業務中は携帯の使用を一切禁止」
というお触れを正当化する大人は多いと思います。
ただ、これは携帯が直接的な原因ではなく、単に本人の集中力の問題だとも言えます。
携帯が禁止になっても、業務中のネットサーフィンで無駄な時間を費やしているかもしれません。
あと駆け出しの研究者(大学院生含む)もよく罠にひっかかります。
僕が実際に目にした事例はこんな感じのものです。
「とある生物的現象Aの原因物質を同定したい。そこで現象Aが発生している時に、いくつか疑わしい物質の体内濃度を測定してみた。すると物質Bの濃度が有意に高くなっていた。だからこの物質Bが現象Aの原因物質である」
これはかなり簡略化していますが、実際に学会発表で聞いた研究なんです。
もちろんこの結論は正しくなく、他の物質が(例えば物質C)が原因物質で、それが回り回って物質Bの濃度を高くしているかもしれないのです。
見事に疑似相関の罠に引っかかっていました。
この発表は当然、シニアの研究者からズタボロにされていました。
ちょっと演者が涙目になっていました。
彼は疑似相関の罠を身をもって知ったことでしょう。
南無。
以上、疑似相関の危険性をお伝えしてきました。
皆さんに本当に理解して欲しいのですが、
相関関係=因果関係
では決してないんです。
簡単なものならすぐに理解できると思いますが、複雑なものになると結構勘違いしやすいです。
僕もたまに間違えます。
これから、学部4年の皆さんや修士2年の皆様などは卒業のための研究に勤しむことになるかと思いますが、是非ともこの疑似相関の罠だけはご注意ください。
ちなみに、ちょっと前に不動産屋の広告で
「いい部屋に住む奴はモテている」
というキャッチコピーがありました。
僕は今、奮発してちょっといい部屋に住んでいます。
騙されてないです。
全然騙されてないです。
これっぽっちも騙されてないです。
うん。
・・・・・・。