世界大学ランキングで日本の大学が全くランクインしていないと騒ぐ大人達に言いたい事
サイエンスポータルでこんな記事が公開されていました。
日本の大学200位内にわずか2校 英教育誌の世界ランキング
英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が9月30日発表した「世界大学ランキング」で、200位内に入ったのは東京大学と京都大学の2大学だけだった。東京大学は昨年の23位から43位に、京都大学も59位から88位にそれぞれ順位を落としている。昨年、アジア地区では最高位だった東京大学は、シンガポール国立大学と北京大学に抜かれ、アジアで3位の評価となった。
・・・途中略
「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」のランキングは、教育、国際性、研究、論文引用度、産業収入の5項目を評価対象としている(細分化した項目としては13)。東京大学、京都大学と、シンガポール国立大学、北京大学の評価結果を比べてみると、国際性(外国人教員、外国人学生の比率)と論文引用度で、東京大学、京都大学ともシンガポール国立大学と北京大学より評価が低いのが目立つ。5項目の評価割合は同一ではなく、国際性は全体の評価に占める割合が7.5%と、産業収入(教員1人当たりの産学連携収入)の2.5%に次いで小さい。他方、論文引用度の全体の評価に占める割合は30.0%。論文の引用度で、東京大学、京都大学ともシンガポール国立大学と北京大学に比べて見劣るのが、全体の評価に大きく影響したことがうかがえる。
なるほど、ざっとまとめると
・世界大学ランキングで日本の全大学中、ランキングTOP200に入ったのは東大と京大だけ
・その東大、京大もランクを大きく下げた
・この没落具合は大学評価全体の30%を占める論文の引用度が低い事が主な原因
となりますね。
日本の研究力低下は少し前から騒がれていて、例えばこちらのブログでは以下の様なグラフが紹介されています。
このグラフは人口あたりの論文数の推移を表しています。
日本の論文数推移は下の方の赤いグラフですが、グイグイと他国(東欧諸国)に抜かれていますね。
なんだかこのようなニュース、とくに今回の大学ランキングのニュースに対して大人達が
「日本の大学教育、研究の質の低下が著しい」
と騒いでいますが、僕の感想を言うと
「まあ、なるべくしてなったな」
という感じです。
上ばっかりを気にして、足下を軽視する日本の科学技術政策
はっきり言って日本の科学技術政策はあまり上手く機能していると思えません。
特に、目先の研究成果だけを気にしすぎていて、未来の科学者を育てようという気概が全く感じられません。
例えば博士課程への学生の対応です。
博士課程の学生と言えば、言わば研究の実行部隊です。
教授の研究テーマを実質的に引き受け、形に仕上げてく、企業で言う社員の様なものです。
ですから、優秀な研究を育てるには優秀な博士学生を育てることが非常に重要なのです。
ひょっとしたらその若い芽から数年以内に世界を変える発明が生まれるかもしれませんから。
そのような金の卵に対しての日本政府の対応はどうだと思いますか?
日本経団連の産業技術委員会によると、日本の博士課程在学生の生活費は年間およそ215万円(授業料含む)とされています。学生らは家庭からの援助や奨学金、アルバイトなどで生活費を賄っていて、収入はマイナスなのです。
そう、将来のびるかもしれない芽を、この日本という国は踏んづけまくっているのです。
これは先進国ではかなり異常なことで、先進国諸国では博士課程の学生は職業として(小額なれど)給料を貰える立場であります(詳しくはこちらのサイトで解説されています)。
このような状況で、日本の優秀な学生が博士課程に進学したいと思うでしょうか。
同学年の友達はもう会社にも慣れて、そろそろプロジェクトリーダーにもなる年頃に、未だに学費を払い、収入が一切ないという状況を誰が受け入れるでしょうか。
頭のいい学生なら博士過程進学を避けていきます。
僕の周りでも、優秀な学生ほど修士課程で研究を辞めて企業に就職しています。
また、下のグラフが示すように、統計的にも博士課程の進学者数は減り続けています。
博士課程の学生数の減少
↓
研究の実行部隊の減少
↓
研究の質の低下
と当たり前の流れが現在表面化してきています。
これが日本政府の科学技術政策の成れの果てです。
若者に投資しなかったつけが今日本には回ってきました。
研究自体への投資の減額も本当に愚策だった
もちろん、博士課程の学生に対する扱いだけが日本の研究力の低迷に繋がっているわけではありません。
研究自体へ投下されるお金が目減りしているのです。
その減り具合は下のグラフを見れば一目瞭然。
この減り具合に対して、このグラフの記事の記者は次のように解説しています
2004年の国立大学法人化以降、大学の人件費がほぼ半分を占める交付金を減らし続け、弱小大学ではもう研究どころではなくなっています。企業経営では「選択と集中」の手法がよく言われますが、研究活動でそれをしようとするならば物凄い目利きが多数必要です。科学記者が長かった私から見てそんな人材は日本では希少です。やはり研究のフィールドを広く取って草の根の仕事をこつこつ積み上げるべきです。「つまらない研究は要らない」と切り捨てる現在の政策は自殺行為です。
これはまさにその通りで、日本には研究の質の見極めに特化した役所があるとは思えません。
素人が
「これが大事そうだからここにはお金をたくさんつぎ込んで、これはいらなそうだから切り捨てよう」
と、むちゃくちゃな判断をしてしまっているのが現状です。
ノーベル賞受賞者の下村教授がオワンクラゲの発光タンパク質であるGFP (Green Fluorescent Protein) を発見した時は、クラゲが光る仕組みなど世間は誰も(全くの0ではないけれど)注目していませんでした。
しかし、GFPタンパクは今では医学、生物学など多岐に渡る研究領域で必要不可欠なツールとなっています。
このような発見を、科学技術に疎い日本のお役人が何年も前から注目して力を注ぐ事ができるでしょうか。
不可能に近いです。
ですから、研究の芽に対しては幅広く、また多額の投資をしていくべきなのです。
科学技術立国と謳いながらも日本はこの自明の理に反しているのです。
まとめとして
さて、ここまで日本の科学技術政策がいかにお粗末なものかを紹介していきました。
ただ、最近の日本は全くのダメダメという訳ではなく、
博士課程の学生に対してはリーディングプログラムという給料(奨学金)付きのプログラムの開始
テニュアトラック制度の開始
など、徐々に(本当に徐徐にですが)良い方向に変わってきていると思っています。
しかし、まだまだこんなものでは不十分です。
日本全体が日本の科学技術力の低迷に危機感を持って、お役所に文句を言ってほしいものですね。
そうすれば、日本の研究もかわり、第二の山中教授も出てくるかもしれません。
少し真面目な話でした。
日本政府の政策に対して危惧している記事をまとめました
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